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大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)494号 判決

控訴人・一審承継参加人 窪田商事株式会社

訴訟代理人 東野俊夫

被控訴人・原告 後藤正次

訴訟代理人 真田重二

主文

一、原判決主文第三項を取消す。

二、控訴人の本件訴訟参加の申出を却下する。

三、その余の本件控訴を棄却する。

四、控訴人の当審における新請求を棄却する。

五、訴訟費用は、訴訟参加の申出によつて生じたものも含めて、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一、控訴代理人は「(一)原判決を取消す。(二)被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。(三)被控訴人(一審原告)と讃和産業株式会社(一審被告)との間において、同会社が被控訴人に対し、原判決添附目録(一)記載の宅地について、同目録(二)記載の建物のため、賃料三・三〇平方メートル当り一カ月金五〇円、毎月一〇日限り前月分払、賃貸期限の定めのない賃借権を有することを確認する。(四)訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

二、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、

一、控訴代理人において、

(一)  控訴人が原審においてなした訴訟参加の申立は、被控訴人(一審原告、以下同じ)のみを相手方としてなしたもので、争いのない一審被告は相手方としていない。したがつて、右申立書には、民訴法第七三条により訴訟参加をなす旨記載してあるが、その実質は、被控訴人を相手方とする新訴の提起である。しかし、原審では特に被控訴人に対する請求の趣旨、原因は掲げていない。原判決には、控訴人が、被控訴人に対し、本件宅地につき賃借権の存在確認請求をなしたものの如く判示されているが、控訴人としてかかる請求をしたことはない。

(二)  当審において「被控訴人と一審被告讃和産業株式会社との間において、同会社が本件宅地につき本件建物所有のための賃借権を有することの確認」を求めるのは、控訴人は、競落により本件建物の所有権を取得することにより、当時一審被告が本件宅地につき有した本件建物の所有を目的とする賃借権をも承継取得したが、賃貸人である被控訴人において、右賃借権の譲渡を承諾しないので、借地法第九条ノ三の規定により、被控訴人を相手方として和歌山地方裁判所に右承諾に代わる許可の裁判を求める申立をなし、借地非訟事件として現に同裁判所に係属中であるが、被控訴人において、一審被告との間の本件宅地賃貸借契約は昭和四〇年三月二七日すでに合意解約により終了している旨主張し、一審被告の借地権の存続を否認しているので、右許可の裁判をうるため、右借地権の存在確認を求める必要があるからである。

(三)  被控訴人主張の一審被告との間における本件宅地賃貸借契約の合意解約は、仮にその事実があつたとしても、それより以前に、本件宅地に賃借権があるものとして一審被告より本件建物につき根抵当権の設定登記を受けている訴外東京ハードボード工業株式会社、同秋木工業株式会社及び右各根抵当権の実行により右借地権があるものと信じて本件建物を競落した控訴人に対抗することができない(大審院、大正一四・七・一八判決、法律新聞二四六三・一四、参照。)。

と述べ、

二、被控訴代理人において、

(一)  原審において、被控訴人は、控訴人に対して、昭和四二年一一月一三日民訴法第七四条に基づき訴訟引受参加の申立をなし、その審訊期日も同年一二月二〇日と定められたが、控訴人において、これに対応して同日同法第七三条による訴訟手続承継参加申立書を提出したので、被控訴人は右訴訟引受参加の申立を取下げ、爾後控訴人を訴訟承継人として、すべての訴訟手続が進行したものである。したがつて右訴訟承継は、控訴人自ら進んで既存の訴訟に参加し、もつて民訴法第七四条に基づく訴訟引受をなしたものと理解している。

控訴人の右訴訟手続承継参加申立が民訴法第七三条、第七一条の規定によるものであるならば、参加の趣旨理由及び請求の趣旨並びに原因が記載され、原、被告双方を相手方とする訴の提起でなければならない。しかるに、控訴人のなした右承継参加申立書には訴の提起はないものであるから、民訴法第七三条、第七一条による独立当事者参加であると解することはできず、あくまで民訴法第七四条による訴訟引受と解さなければならない。かく理解してこそ初めて爾後の訴訟行為がなされたものというべきである。

(二)  もし仮に、控訴人があくまでも民訴法第七三条、第七一条に基づく訴訟参加であるというならば、その参加申出は不適法たるを免れず、かつ、当審における控訴の趣旨記載の「讃和産業株式会社が本件土地につき賃借権を有することの確認を求める。」との確認の訴は、控訴人としては確認の利益はないものというべきである。

(三)  控訴人が、その主張の如き借地非訟の申立をなし、現在係属中であることは認めるが、本件宅地の賃借権は、昭和四〇年三月二七日消滅し、その後昭和四二年一〇月二〇日、控訴人は本件建物を競売により取得したものであつて、被控訴人が賃貸人として譲渡を承諾すべき賃借権は存在しないものであるから、控訴人の借地法に基づく右賃借権譲渡の承諾に代わる許可裁判の申立はこれを許容さるべきものではない。したがつてこの点においても、前記確認を求める利益はない。

と述べた、

ほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

第三証拠関係〈省略〉

理由

第一まず本件の訴訟関係について考察する。

一、本件記録により本件の訴訟経過をたどると、(1) 被控訴人(一審原告)は、昭和四二年八月一八日讃和産業株式会社(一審被告)に対し、本件宅地賃貸借契約の合意解除に基づく原状回復義務の履行として、本件建物収去、土地明渡請求の訴を提起し、その後同年一一月一三日控訴人を被申立人として、控訴人が競落により、本件建物の所有権を取得し、右訴訟の目的たる債務を承継したとして、民訴法第七四条により訴訟引受参加の申立をなし、同年一二月二〇日を審訊期日と定められたが、同日控訴人より後記訴訟手続承継参加の申立があつたので、右引受参加の申立を取下げた。(2) 控訴人は、右同日「昭和四二年七月二〇日右訴訟の目的物件である本件建物を競落し、同年一〇月二一日その所有権移転登記を経由した」ことを理由に、民訴法第七三条により右訴訟手続に承継参加する旨の申立をした。しかし、右参加申立書には参加請求の趣旨及び原因の記載がなく(印紙も三〇円の印紙を貼用したのみ)、その後も右補充がなされないまま訴訟手続が進められ、控訴人は、ただ被控訴人よりの後記請求に対し答弁するにとどまつた。(3) 被控訴人は、控訴人より右参加の申出があつたので、昭和四三年二月一四日控訴人に対し、右訴訟の目的たる債務を承継したものとして、本件宅地所有権に基づき本件建物除去、土地明渡の請求をした(右請求は準備書面に基づいてなされ、印紙は貼用されていない。)。(4) 一審被告は公示送達により訴状及び反頭弁論期日の呼出を受けたが、原審口頭弁論期日に一回も出頭しなかつた。したがつて原審においては専ら被控訴人と控訴人との間において、被控訴人の控訴人に対する右請求の当否について争われ、叙上の状態のままで結審したが、原審は、控訴人を民訴法第七三条による承継参加人として判決し、被控訴人の各請求を認容した。(5) 一審被告は控訴の申立をなさず、控訴人のみ控訴し、新たに「被控訴人と讃和産業株式会社(一審被告)との間において同会社が本件宅地につき本件建物所有のための貸借権を有することの確認を求める。」旨の請求をしたことが明らかである。

二、そこで、控訴人のなした前記訴訟手続承継参加の申立の性質について考えるに、被控訴人は当初民訴法第七四条による引受参加の申立をなしたが、控訴人が自ら進んで訴訟手続承継参加の申立をしたので、右引受参加の申立を取下げたこと、控訴人が承継参加人として何ら自己の請求をなすことなく、専ら被控訴人の自己に対する請求に対し応訴するに終始したこと、裁判所も控訴人に対し自己の請求を提示するよう促した形跡は全く窺われないこと等の経過から見ると、原審では被控訴人主張のように控訴人の訴訟上の地位を引受参加人と同視して訴訟手続が進められたものと考えられないではない。しかし、控訴人提出の申立書には、本件建物を競落により取得したので、民訴法第七三条により承継参加の申立をなす旨明記せられており(訴訟の目的たる債務を承継した第三者も民訴法第七三条により自ら進んで既存の訴訟に加入しうる。最高裁判所昭和三二・九・一七・第三小法廷判決、民集一一巻九号一五四〇頁参照。)、かつ、控訴人の訴訟参加につき民訴法第七四条所定の手続は履践されていないから、叙上訴訟の経過、原審の訴訟指揮いかんにかかわらず、控訴人をもつて引受参加人であると解することはできない。ところで、民訴法第七三条により訴訟参加の申出をなすには、同法第七一条の参加方式により常に既存の訴訟の両当事者を相手方となすことが必要で、その一方のみを相手方としてなした参加の申出は、その実質は新訴の提起と解すべきところ(最高裁判所昭和四二・九・二七・大法廷判決、民集二一巻七号一九二五頁参照。)、これを本件参加申出についてみるに、申立書の記載並びに原審における訴訟経過に徴すると、原告(被控訴人)のみを相手方とするものであると明示はされていないけれども、その趣旨であることを看取するに難くなく、控訴人自身も当審においてその旨の釈明をしたから、右参加の申出は民訴法第七三条の参加申出としては不適法であるといわなければならない。しからば、これをもつて新訴の提起と解しうるかというに、前示のように控訴人は、申立書にも、その後提出の準備書面にもなんら自己の請求を記載していないから、かかる参加の申出をもつて新訴の提起があつたものと解しうる余地も全くない。

原判決は「承継参加人は、原告の請求を棄却するとの判決を求めるのみでそれ以上積極的に請求するところがないけれども、承継参加人の本件全弁論の経過に徴すると、原告に対し本件宅地賃借権の存在確認を求める趣旨に出ずるものと解することができる。」として、控訴人において右趣旨の請求をなしたものの如く判示し、主文において右請求棄却の判決をなしているけれども、原審における控訴人の主張並びに弁論の全趣旨と徴しても、控訴人が原審において、原判示のような確認請求をなしているとは到底認め難く、控訴人も当審において原判示のような請求はしていない旨釈明しているから、原審は独自の解釈により前示のような判示をし、虚無の請求を棄却したものというべく失当たるを免れない。

このように見てくると、控訴人がなした前示参加の申出は不適法として、却下すべきものであり、かつ、原審においては形式的にも実質的にも、控訴人の訴提起と解しうべき訴訟行為は存在しないから、控訴人が当審においてなした前掲確認の請求は、当審における新訴の提起であつて、その実質は、被控訴人の請求に対する反訴の性質を有するものと解すべきである。しかして、当審口頭弁論の経過に徴すれば、被控訴人は、右新訴に対し異議を述べずに本案の弁論をなしたことが認められるから、右新訴は適法に提起されたものというべきである。

三、次に被控訴人が原審においてなした控訴人に対する請求は、形式的には承継参加人に対しなされたものであるけれども、実質は控訴人を被告とする独立の訴で、一審被告に対する訴と併合審理されたものと認むべく、かつ控訴人の請求に対してなされたものではないから、反訴でもない。したがつて相当印紙の貼用を要するところ、当審において追貼されたから適法である。

四、原判決は、控訴人を民訴法第七三条(第七一条)の承継参加人と見て、同法第六二条の準用があるとの見解の下に判断しているが、前示のように控訴人は、右の承継参加入には該当しないから、本件につき同法第六二条の準用はなく原判決は一審被告に対する関係では確定したものというべきである。

よつて、当裁判所は、本件訴訟関係を以上の如きものであると解し、以下被控訴人の控訴人に対する請求及び控訴人の被控訴人に対する当審における新請求の当否について順次判断する。

第二被控訴人の控訴人に対する請求について。

一、被控訴人主張の請求原因事実中、被控訴人が、本件宅地の所有者であり、一審被告がもと本件建物の所有者であつたこと、被控訴人が、昭和三三年一月一日、一審被告に対し、本件宅地を、主張の如き目的と約定で賃貸したこと、一審被告が、昭和三九年七月二九日、訴外秋木工業株式会社のため、本件建物について、その主張の如き根抵当権を設定し、同年一〇月一三日その登記をしたこと、ところが、右訴外会社は、右根抵当権に基づいて和歌山地方裁判所に本件建物の競売を申立て、その結果、控訴人が、昭和四二年七月二〇日の競落期日に本件建物を競落し、同年一〇月二〇日その所有権移転登記を了し、本件建物を所有して、その敷地である本件宅地を占有していることは、当事者間に争いがない。

二、そこで、控訴人の本件宅地に対する占有権原について検討するに、控訴人は、前記のとおり、本件賃借宅地上の本件建物を競落によつて取得したのであるから、他に特段の事由がない限り、本件宅地の賃借権は、本件建物の所有権とともに控訴人に移転するものと解するのが相当ではあるが、それはあくまでも賃借人の一審被告と控訴人との間においてのことであつて(最高裁判所昭和四〇・五・四・第三小法廷判決、民集一九巻四号八一一頁参照)、賃貸人たる被控訴人との関係においては、右賃借権の譲渡に対する同人の承諾がない限り、控訴人は右賃借権の取得をもつて被控訴人に対抗することはできないものというべく、そして右承諾のないことは、控訴人の主張自体によつて明らかであるから本件建物競落取得の事実のみでは、いまだもつて本件宅地占有の正当権原を肯認することはできない。

なお控訴人は、当審において、同人は和歌山地方裁判所に対し、被控訴人を相手に本件宅地について借地法第九条ノ三の承諾に代わる許可の裁判を求める申立をし、現に係属中であるから、不法占有にはならない旨主張し、右借地非訟事件が同裁判所に係属中であることは当事者間に争いがないけれども、右法条の承諾に代わる許可は、当該申立を認容する裁判が確定して始めて形成的効力を生ずるものであることは、同法第一四条ノ九第二項の明記するところであるから、右主張は理由がない。

三、そうすると、本件宅地の占有権原につき、他に何らの主張も立証もない本訴においては、控訴人は、本件宅地の不法占拠者として、本件宅地の所有権者である被控訴人に対し、本件建物を収去して、本件宅地を明渡すべき義務があり、被控訴人の本訴請求は、正当といわなければならない。

なお控訴人は、被控訴人主張の借地契約合意解約の事情は、極めて不可解であるから、同人の本訴請求は権利の濫用である旨主張するが、仮に、一審被告の被控訴人に対する本件借地権が存続していたとしても、控訴人は、右借地権の承継取得をもつて、被控訴人に対抗しえないこと前段説示のとおりである以上、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は当然の権利行使であつて、控訴人主張の如き事由をもつては、到底本訴請求を目して権利の濫用に当るとはなしえないから、控訴人の右主張は採用できない。

第三控訴人の被控訴人に対する請求について。

一、まず控訴人の被控訴人に対する訴の利益について考察するに、およそ確認の訴は、単に当該訴訟の当事者間における権利ないし法律関係にとどまらず、当事者の一方と第三者との間、または第三者間における権利ないし法律関係についても、訴訟当事者間において確認の利益がある限りは、これを提起しうるものと解すべきところ、本件の場合、控訴人か和歌山地方裁判所に対し、被控訴人を相手に、本件宅地について借地法第九条ノ三の承諾に代わる許可の裁判を求める申立をなし、現に係属中であることは、前記のとおり当事者間に争いがない。

ところで、右法条の裁判は、いうまでもなく、特定の借地権の存在を前提としており、その申立を受けた裁判所は、当該借地権の存否についても自ら審理判断し、これに基づいて申立の許否を決しうべきものと解すべきではあるが、他方右借地非訟事件の裁判は既判力を有せず、右裁判によつて借地権の存否が確定されるわけのものではないから、もし借地権の存否に関して、当事者間に争いが存する限りは、通常の民事訴訟による裁判によつてこれを確定したうえで、借地非訟の裁判をなすよりほか、裁判による終局的な解決の途はないうえ、もし控訴人の前記許可裁判の申立が認容され、それが確定すれば、控訴人は、本件宅地の適法な賃借権者として、右宅地を正当に占有しうる立場にあることを考えれば、前記認定のように競売によつて本件建物とともに本件宅地の賃借権を取得し、前記のように借地非訟の申立をしている控訴人は、被控訴人を相手に、前記請求趣旨の如き賃借権の存在確認を求める法律上の利益を有するものと解するのが相当である。

二、そこで次に、控訴人主張の賃借権の存否について判断するに、一審被告が、昭和三三年一月一日、被控訴人から、本件宅地を被控訴人主張の約旨で賃借したことは前記のとおりであるが、当審証人田村米一の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第三号証に右証人及び原審証人長井安雄の各証言を合せ考えれば、一審被告は昭和三九年一月以降全くその賃料を支払わなくなつたので、被控訴人において賃貸借契約の解除を求めた結果、昭和四〇年三月二七日、双方協議のうえ、被控訴人主張どおりの約旨で、本件宅地の賃貸借契約を合意解約し、同日限り本件宅地の賃借権は消滅するに至つたものであることを認めることができ、これに反する証拠はない。

控訴人は、本件宅地の賃借権が存在するものと信じて本件建物を競落取得したのであるから、右賃貸借契約の合意解約は競落人たる控訴人の期待を裏切ること甚だしく、まさに信義則に違背し、また被控訴人は右合意解約をもつて、控訴人に対抗することはできない旨主張するが、右合意解約は、前段認定のように、賃借人の一審被告が賃料の支払いを一年余にわかつて遅滞したため、これを理由に被控訴人が賃貸契約の解除を求めた結果、合意解約という形で契約を解除することにしたものであつて、その原因は専ら賃借人の賃料不払という債務不履行に存すること、本件建物に対しては昭和四〇年一二月一八日競売開始決定があり、同月二二日競売申立登記がなされていることは当事者間に争いがなく、控訴人が本件建物を競落したのは前記のとおり昭和四二年七月二〇日であるから、控訴人の本件建物の競落取得はもちろんのこと、右競売開始決定も、前記合意解約によつて本件宅地の賃借権が消滅した後であることは明らかであるうえ、成立に争いのない甲第七号証及び弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第五、第六号証によれば、被控訴人は、前記競売開始決定後、競売手続進行中の昭和四一年七月二八日頃、根抵当権者の訴外秋木工業株式会社及び同東京ハードボード工業株式会社に対し、本件宅地の賃借権は、一審被告の賃料不払いのため、昭和四〇年三月二七日限り、合意解約によつて消滅している旨通知していることが認められ、右事実に当審証人田村米一の証言並びに本件弁論の全趣旨を合せ考えれば、控訴人は、本件宅地の賃借権は既に被控訴人と一審被告間の合意解約によつて消滅していることを知悉しながら、本件建物を競落取得したものであることがうかがい知られ、以上の諸事情を総合すれば、上記賃貸借の合意解約が信義則に違背するとは到底いえないし、また被控訴人は、右合意解約をもつて、控訴人に対抗しうるものと解するのが相当であるから、控訴人の右主張は採用し難く、控訴人引用の判例も右の如き諸事情の認められる本件事案には適切でない。

三、そうすると、既に消滅した賃借権の存在確認を求める控訴人の請求は失当であり、棄却を免れない。

第四以上の次第によつて、原判決中控訴人の被控訴人に対する請求を棄却した部分は失当であるが、その余は相当であるから、民訴法第三八六条によつて右控訴人の請求を棄却した部分を取消して、控訴人の本件訴訟参加の申出を却下し、その余の本件控訴は同法第三八四条にしたがつてこれを棄却するとともに、当審における控訴人の被控訴人に対する新請求も失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条、第九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岡垣久晃 判事 島崎三郎 判事 上田次郎)

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